2000.09.06

朝 4:45 am に起きるつもりで目覚ましをセットしたが、
2時半に目を覚ましてしまった。
結局、その後眠ることができず、コンビニへ日経新聞を買いに行ったが、早すぎて朝刊がまだなかった。
トホホ・・・・
雑誌を立ち読みして待つこと20分。
新聞をゲットして家へ戻る。
東京ステイの日は実家へ帰ることにしている。
毎月勤務で10泊以上するため、ホテルは大嫌い。
今日のピックは 5:45am。
親を起こさないように軽くメシを食い新聞を読む。
これが日課。
今日の勤務は  0635 Show Up  575便 羽田−石見 0735−0905
                     576便 石見−羽田 0935−1100
                     577便 羽田−石見 1305−1435
                     180便 石見−大阪 1505−1600  1630に終了

朝と昼は弁当がつくが、私は大食らいなのでそれだけでは足りない。
今日のパターンはまァまァ。
勤務時間は長いが、弁当は机の上で、地上で食べることができる。
大抵は、飛行機の中で駐機中にお掃除のおばさん達の迷惑にならないように食べる。
でも最近はそんな時間もなく、上空へ行ってからかき込むように食べる。
ATCやカンパニーなど、無線でしゃべらなくてはならないので、
口に入れたらできるだけ早く飲み込まなくてはならない。
管制官が話しかけてこないタイミングを考えながら、少しずつ口に入れ、一気に飲み込む。
あくまでも少しずつ。
そうすれば、飲み込めない時は口の中の片方に、食べたものを押し付けながらしゃべることができる。
路線が短いときは巡航も短い。食べる時間は5〜10分。
口に食べ物を入れたら、飲み込むまでの間は仕事をする。
口は塞がっていても、手は空いているからだ。

今日は関東地方は前線の影響で午前中は天気が悪く、西日本は良好。
関東の天気が悪いからといって、離着陸できない天候ではない。
問題は巡航。上空に強いトラフ(気圧の谷)があり、その影響で揺れそうだった。
トラフの中を通過するとき、風向が変化するために飛行機は揺れる。
この揺れは風速が強いほど大きい。幸い冬と違い、夏は上空の風は遅い。
CA(客室乗務員)がサービスをかろうじて出来る程度の揺れであることを、
出発する前にいつも願っている。

トラフを東から西へ通過すると風向は
南風→南西風→西風→北西風→北風 と除々に変化していく。
名古屋から琵琶湖にかけて非常にシャープなトラフが停滞し、
20,000〜40,000ft まで揺れる予報だった。
そして実際に飛んでみると名古屋の東20マイルから大津の西20マイルまで揺があった。
不思議だったのは、トラフの中を通過したにもかかわらず、
風は 南→南東→東→北東→北 と変わっていったことだ。
機長いわく、「これってトラフじゃないよな?」。 僕にも分からなかった。
結局なんとかベルトサインを点灯させずにすんだ。

東京と石見のアプローチはスムースだったが、大阪のアプローチは揺れた。
地上風は110度方向。大して強い風ではなかったが飛行機は持ち上げられたり、沈んだり。
その度にスラストとピッチを調整する。
滑走路は32Rの右後方に建物がある関係で、110度の風では32Rの方が32Lより揺れる。
180便はキャプテンが担当しており、なんてことなく着陸した。
寝不足で疲れていたが、いい一日だった。



2000.09.09

447便(羽田−大館能代)はめずらしく満席。
しかも 1/3 近くメキシコ人。
Push Back、Engine Start してTaxi中、CAから連絡があった。
不吉な予感・・・・・ 10D、E、F のお客が3名いないらしい。
トイレに入ってないか、すぐチェックしてもらったがやはりいない。
カンパニーに無線で確認。カンパニーは何も聞いてないという。
そうこうしているうちに滑走路の手前まで来てしまった。
出発の順番を他機に譲り、脇へそれた所で停止。
この便は私の担当だったので、CAが日本語でアナウンスを入れた直後、英語でアナウンスを入れる。
しばらくして、カンパニーから連絡があった。
447便は Open Spot でバスによる飛行機への案内だったが、
3名のメキシコ人乗客はスカイマーク便のバスに乗ってしまったとのこと。
そのスカイマークは目の前で離陸滑走を始めていた。
再び状況を説明するアナウンスを入れ、仕方なく Spot へ戻った。

結局30分遅れで就航。
後でCAに聞いたのだが、かなり他の乗客に迷惑がかかったにもかかわらず、
3名のメキシコ人達は、飛行機に入ってくるなり手をふって大騒ぎしていたらしい。
さすがラテン系・・・・

関東周辺にはCB(積乱雲)があり、東北地方は温暖前線の影響でどの高度もこの日は揺れていた。
遅れているのでぶっ飛ばしていきたかったが、速度は速いほど揺れは強い。
満席の時はサービスに時間がかかるので、CA のためにできるだけ長い間ベルト着用サインを消してあげたい。
CA が客席内を立って歩き、飲み物のサービスがかろうじてできるであろう、ギリギリの揺れまで加速する。
もっとも揺れそうにない高度、追い風の強い高度を探して上昇。
30分遅れで出発したが、25分遅れで到着できた。

帰りの448便に、Tight Connection Pax の Info。(乗り継ぎにあまり時間がないお客さん)
448便が定刻で羽田に到着したとしても、乗り継ぎのJAS便出発まで45分しかない。
羽田のターミナル内で ANK と JAS は正反対に位置する。走っても5分程度はかかる。
しかも447便の到着は25分遅れ。 満席の後の清掃には時間がかかる。
それでも急いで清掃を終わらせて頂き、乗客の案内もスムースにすすんだため、
なんとか20分遅れで折り返し大館能代を出発。 休む暇は全くない。
カンパニー無線で乗り継ぎが間に合うように要請した。
恐らく羽田空港内を移動するためのバスが、飛行機まで迎えに来てくれるはずだ。
あとはかっ飛ばすだけ。 こんなとき揺れがないと助かるのだが・・・・
羽田の滑走路は 16L、Spot 23 。 着陸してから Ramp-in するまでに8分かかる。
羽田への進入開始後、運良く滑走路は22に変わった。
しかも Visual Approach。
なんとか到着を15分遅れに縮めることができた。
乗り継ぎの乗客はバスに乗り JAS のターミナルへ向かっていった。
きっと彼は JAS 347便に乗れただろう。

中標津を一往復した後、大館能代を一往復。かなり疲れた。



2000.09.10

09.06 と同じ勤務。
577便は石見が天候が悪く大変だった。 出発時は土砂降りの雨。 なんとか降りれる程度の気象状況。
到着時間帯は雲が移動し、大雨を降らせた積乱雲の帯びに沿って、その中を降下。
滅多に経験しない程度の揺れがあった。
折り返し 180便で同じ地点を上昇中、577便のときより激しく揺れた。
乗客の中には、悲鳴をあげた人もいたようだったが、
機長は、飲み物の入った紙コップを見ながら、「こぼれてないからまだまだな。」 と余裕。

大阪に近づくにつれて、あちこちに積乱雲があるのが見えてきた。 最悪である。
関空に日本海からアプローチしている飛行機もみんな逃げ回り、管制官はさぞ大変だったろう。
右往左往しながら積乱雲の林をなんとかすり抜けたが、目の前に、丁度伊丹空港への進入経路上、
滑走路末端から7マイルの地点に、これまたどでかい積乱雲が立ちはだかっている。
どないすんねん!!??
運良く 5000ft 以下は視程良好。 かなり高めだったが、Visual Approach をリクエスト。
積乱雲の手前に切り込む作戦。 その旨管制官に伝えたが、滑走路は見えているのか、
積乱雲の位置も把握しているのか、積乱雲が見えているのか、何度も聞かれた。
管制官がそれほど心配するスケールの積乱雲だったことはたしか。

Clear for Visual Approach Runway 32L.
ギアをたたき降ろし、スピードブレーキをマックス引っ張って、急降下。
途中、薄い雲の近くを通ったとき、大きく飛行機が揺れた。 あの真っ黒な雲に接近しなくて良かった・・・
かなり高めからのアプローチだったが、なんとか進入を継続。
着陸は Very Smooth な、しかも接地点の伸びない Good Landing だった。
もちろん操縦は機長がしていた。



2000.09.13

起床 0510  Pick 0600 関空へ移動
Show Up 0710  221便 関空−松山 0810−0900
           237便 松山−千歳 0930−1135
           497便 千歳−稚内 1205−1255
           496便 稚内−千歳 1325−1415
           238便(DH=便乗) 千歳−松山 1450−1705  勤務終了 1705

237便は 11:35 に千歳到着。 次の497便は 12:05 発。 インターバル 30分しかない。
にもかかわらず Ship Change(飛行機を乗り換えること)。
CA も乗員も一旦荷物を片付け、次の飛行機に移り、再び準備しなければならない。
それでも、乗り継ぐ飛行機同士をとなりのスポット(駐機所)に止めてくれればまだましだが、
この日は 237便 は63番スポットで 497便 は0番スポット。めちゃくちゃ遠く、バスで移動。
しかも、いずれのスポットも OPEN のため、乗客もバスによる降機、及び案内。
とにかく時間がかかる。
この日私は 237、497 の担当だった。
237便は幸い追い風。
そして千歳も北風で滑走路は 01R を使用。南から北へまっすぐ降りれる。
これが南風だと 19L に代わり、飛行場を左に眺めながら、ぐるっと反対側まで飛行しなければならない。
これだけで10分ほど余計にかかる。
着陸後、スポットは滑走路に対して北に位置するため 19 で降りると
Taxi−in(地上滑走してスポットに入ること)にさらに数分余計にかかってしまう。
TAF(飛行場の天気予報)によれば午前中に南風に変わるはずだったが、はずれてくれた。
ありがたい。
千歳に進入開始。
Traffic が多く(混んでいる)ぐるぐる回されたが、
なんとか定刻より 5分早く到着した。

急いで後片付け。
そしてバス移動。
497 の Ship(飛行機)に到着したときは、すでに出発予定時刻の15分前。
乗客を機内へ案内するはずの時間だ。
CA も大慌てで新聞、雑誌の用意、装備品搭載の確認等、業務を進めていく。
結局 15分遅れで出発した。

497 は稚内行き。
稚内空港のようにレーダー管制もされておらず、管制官もいない空港(Radio 空港)では
出発機と到着機の管制間隔は広くとられている。
この時間帯は、497便は他社の出発機と到着機の後の到着となり、
降下、進入のクリアランス(管制承認)はなかなかこないため、稚内上空で待機することが多い。
この日は比較的陸上に雲が多かったものの、隙間はあり、又、海上にはほとんど雲はなかった。
雲の下の高度(雲低高度 = Cloud Base)は 2500ft 程度。
我々の進入経路と同じ経路上を、他社が反対方向から上がってくる。
そのまままっすぐ降りては危険だ。
又、到着機は15マイルほど、497 の前方を飛行中のはず。
計器上の TCAS(他機の位置を確認できるコンピューター)を使い、その位置を確認。
IFR キャンセル。
管制官が管制間隔を設定してくれる飛行方式(IFR)をキャンセルすることで、
管制承認なしで降下、アプローチができる。
但し、地上、他機との衝突回避の責任はパイロットが負うことになる。
上昇してくる飛行機にぶつからないように左へ旋回、海上に出て高度処理し(降下し)、
その後陸上の雲の下に出る作戦。 これが成功し、15分遅れの出発を縮め、ほぼ定刻に到着した。



2000.09.14

Show Up 0705  222便 松山−関空 0805−0855
           701便 関空−高知 0950−1030
           301便 高知−千歳 1120−1320
           302便 千歳−高知 1355−1600   勤務終了 1630

私は、普段から健康管理に最も気を使っている。
パイロットは航空身体検査を副操縦士は 1年に 1回、機長は半年に 1回受ける。
これをパスしないと乗務できない。

地上勤務とパイロットとでは、その仕事は大きく異なると思う。
地上の乗り物は、疲れたり、眠くなったら、止まって休むことができる。
飛行機は決して止まれない。
地上でデスクの仕事をしていて、疲れがたまり、仕事の能率が下がったとしても、
ペースを落としたり、残業したり、次の日に回すことができる。
又、朝出勤したて、日中、勤務終了時、仕事の能率が一定である必要はない。
朝に強い人は午前中がんばり、朝に弱い人は夕方がんばればいい。
パイロットは疲れても決められた乗務を減らすことはできない。
又、1回目の着陸と、4回目、5回目の着陸と比べて、後半の方が集中力が衰えていては困る。
常にコンスタントの能力を発揮し続けなければならない。
1回目の離陸中に火災が発生した場合と、4回目とで、その対処が遅れてはならないのである。
そこが 1番つらい。 人間だから疲れてくると集中しにくくなってくるからだ。
すごく贅沢なことだが、パイロットは疲れすぎる仕事を課されてはならないと感じる。
航空身体検査を通るように、乗員は食べたいものも抑制することもあるし、酒を控えることもある。
飲みに行って楽しい時間を過ごしていても、早めに切り上げて睡眠を充分とるようにしている。
それは、健康管理をしなければ仕事を続けられないからだけではなく、安全運航を最も大切にしているから。



2000.09.15

Show Up 0640  402便 高知−伊丹 0740−0820
           403便 伊丹−高知 0855−0935
           702便 高知−関空 1005−1045  勤務終了 1115

今日は楽なパターン。
たまにはそんな日もないと。
3時に目がさめた。
それから眠れなかった。
仕方がないから新聞を読み、余った時間でこの Diary の下書きをしていた。
9月19日に実は技能審査を控えており、勉強すべきことは山のようにあるのだが、
さすがに朝の3時から勉強する気にはなれない。 最近休みの日は毎日勉強に追われている。
そのことについてもそのうち書くつもり。

朝から天気が悪い。
ここのところ台風14号が停滞しているせいで、
四国、近畿地方は湿った南風が吹き、雲が多く雨を降らせる。
パラパラ程度ならべつにどうってことないが、集中豪雨的に降られてしまうとつらい。
そんな雨を降らせる雲は乱気流をともなう。
巡航はガタガタに揺れるわけだ。
403便。 伊丹を上がり瀬戸内を一時西へ向かう。
淡路島の上空を通過後、左へ旋回して高知へ。
瀬戸内海は非常に良い天気だ。
関空も見えている。
しかし、四国方面は東西に壁のような積乱雲が連なっている。
台風の影響だ。
雲の中へ突入。 レーダーを見ながらもっとも雲の薄いところを探す。
なんとかあまり揺れずに雲の外へ出た。 高知へアプローチ開始。

403便に乗務前、高知空港周辺の積乱雲、エコー(雨と乱気流の強い部分)の状況は調べておく。
しばらく高知の上空に積乱雲は来ていなかったが、我々が丁度着陸するころ、
エコーがかぶっていそうな状況であることがレーダーを見るとわかる。
やばいなァー。 イヤな予感・・・・
それこそ到着が5分早ければ全く問題ないが、
その数分後から急激に天候が悪化して降りれなくなるパターン。
地上はサークリングの風。 海上の Cloud Base は比較的高いのだが、
南風が吹くと高知空港の北西に位置する山が壁となり、そこに Base の低い雲がたまってくる。
北風なら Cloud Base が 300ft でも降りれるが、南風だと 700ft 以上ないと降りれない。
海上からは飛行場はかなり遠くから見えていた。
ILS から Right Break して Left Downwind へ向かう。
Minimum Circling で高度は 700ft。
Abeam Check して 12秒飛行後、左へ旋回し Base Leg へ。
Top of Descent は Base Leg の中間点。
そこまで高度を下げられない。
目の前に低い雲が垂れ下がっている。 Base はおよそ 500〜600ft。
Top of Descent の2秒前、雲の中に入ってしまった。 これでは着陸できない。
ゴメンナサイ。
ゴーアロウンド。
上昇し、決められた経路にそって飛行。
ホールディング開始。

カンパニーと無線で連絡しながら、エコーの状況と Base Leg の低い雲の状況を把握。
ホールディング中は燃料計算がメインの仕事。
ワン トライしてダメでゴーアラウンドすると 1000〜1500 ポンドの燃料を使う。
これは飛行場によって異なる。
待機には1分で 80ポンド程度必要(高度により違う)。
着陸を断念し、ダイバート(目的地の変更)するために必要な燃料と、緊急時に必要な燃料を差し引き、
あと何回アプローチをトライするかキャプテンと相談しながら、ホールディング可能時間を算出する。

15分程度ホールディング後、
どうやら着陸できそうな天気まで回復したと判断し、再度アプローチ トライ。
あと一回ミスっても(Missed Approach しても)、
5分程度ホールディングしてから、もう一度アプローチできる燃料は残している。
ILS の Final は前のアプローチのときより Cloud Base が低かった。
一瞬ダメかな?と思ったが、雲の下に出て飛行場とその向こう側の山沿いの雲が見えたとき確信した。
今度は絶対大丈夫。 風は強かったが、無事に着陸した。

402便の到着後、ANK の 701便が到着。
いて東京からの ANA は Missed Approach。
着陸できなかった。
またエコーがかぶり、300m先も見えないような大雨と、低い雲のせい。
全てはタイミングの問題。
しばらくして天気は回復し、まず J-Air が降り、その後 ANA が降りた。
我々はまた天気が悪くならないうちに、とっとと関空へ向かった。

関空からはバスで尼崎へ。 乗客どうしの会話が聞こえてきたが、
たまたま帰りの方向が同じおばさんがいたので、失礼かと思ったが話し掛けた。
「一緒にタクシー相乗りしませんか?」
おばさんは電車で重いスーツケースを運ぶより楽だと喜んでくれた。
タクシーのなかで、おばさんと運転手さんと3人で盛り上がってしまった。
おばさんはアリタリアでイタリア帰り。 和歌山の出身。 ソバージュをかけた上品な方だった。
運転手さんは釣りが好きで、和歌山にはしょっちゅう出かけているらしい。
ついこの間も 83cmのカレイを釣ったらしく、写真を見せてくれた。
そこには、89cmのタイと 2kg のイカも写っていた。
今度の日曜日にも釣りに行くのだとはりきっていた。
また、この運転手さんに会ったら、休みの日に釣りへ連れて行ってくれないか頼んでみようと思っている。



2000.09.17

伊丹−高知 を 2往復した。 台風 14号も過ぎ、久しぶりにいい天気だった。
朝早かったが、こんな日は気分は最高。 私の担当は2往復目の 2ラン(2 Landings)。 405、406便。
何事もないかと思いきや、405便で着陸時に鳥にぶつかってしまった。

先行機の ANK 701便は問題なく着陸し、その 2〜3分後のこと。
Touch Down して、リバース(逆噴射)を Max にしたところ、音で飛行機の接近に気が付いたのか、
滑走路上に止まったていたトンビが1羽、飛び立った。
反射的にリバースをアイドルに戻した。
飛んでいる鳥は、スズメやツバメ程度の大きさでもすぐに認識できる。
カラス程度の大きさの鳥の場合は、当たらないように着陸を断念し、ゴーアラウンドすることもある。
着陸直前は時速200km程度で飛行しており、飛行機に当たると機体がへこむことがあるからだ。

今回はバードストライク(鳥衝突)の中でも最も最悪なケース。
エンジンに吸い込んでしまったようだった。
トンビが右の翼の方向へ視界から消えていったとき、音もせず、衝撃もなかったので、一瞬大丈夫かと思った。
トンビは羽を広げると1m以上ある大きな鳥だからだ。
ところが、トンビが視界から消えてから数秒後に、何かが焦げる臭いがした。
すぐ、吸い込んだな、と分かった。
今まで鳥を吸い込んだ経験のない私だったが、そうだとわかる臭いだ。
しばらくして CA にインターフォンで呼ばれた。
もしもしー、ピラフみたいな匂いがします。」(CA)

飛行機を降りてから右のエンジンに近づくと、そこらじゅうにトンビの羽が落ちていた。 ゴメンナサイ。
その後、整備さんはエンジンランアップ(発動機試運転)をし、エンジンに異常がないことを確認後、
5分遅れで 406便は就航。 離陸時また同じような臭いがしたが、数秒で消えた。



2000.09.20

昨日は技能審査だった。
年に1回の大行事。
書面審査、口頭試問、技能審査から成る。
副操縦士として1年間に受けることが義務付けられているのは、技能審査、路線審査、定期訓練、ロフト訓練。
このうち、技能審査、定期訓練、ロフト訓練は緊急事態を想定し、シミュレーターを使って行う。
定期訓練とロフトは基本的に訓練であり、低評価をくらうことはあっても不合格にはならない。
技能審査と路線審査は審査なので、落とされる可能性がある。
又、技能審査、路線審査、定期訓練はオーラル(口頭試問)がある。
路線審査ではエアラインとして路線を飛行するために必要な、
航空路、飛行場に関する知識や、社内規程について質問される。
技能審査、定期訓練では飛行機のシステム、性能など、飛行機のマニュアルについて質問される。

ここ1週間ほど休みの日も、勤務の間もずっと勉強していた。
ずっとといっても、学校で受ける期末試験の前とあまり状況は変わらない。
イヤイヤするから、非常に効率の悪い勉強の仕方だ。
5分勉強しては顔を洗い、また5分たったらキッチンで麦茶を飲み、
しばらくしてマクドナルドへ行き、勉強してるふりなどしてみる。
それでもいっこうにはかどらない。
誰もが学校へ通っていたころ経験してきたであろうことを、社会人になっても1年に3回ほどするわけだ。
こんなダイアリー書いてる暇があったら、勉強しろ、と審査官に言われそうである。
もちろん、私のような乗員はそう多くはないと思うので、ご安心を。

審査の結果については、良かったといえばウソになるし、
ボロボロだったといえば、そんなんでも合格して飛行機を飛ばせるのか、とお客さんに不信感を与えるので、
今回の結果についてはみなさんの想像にお任せする。
「審査」なので、誉められることはまずない、ということだけはいえる・・・・・・
1週間勉強したことについては、全く聞かれることがなかったのは残念だった。

13:55 発、ANA 28便で一緒に審査を受ける機長と東京へ。
社用バスで訓練センターに移動。
ブリーフィングは 18:00 〜 19:00。 ここで書面審査とオーラルをする。
シミュレーターによる審査のフライトは1人2時間づつ。
19:00 〜 23:00。
飛行後のブリーフィングは 23:00 〜 24:00。

シミュレーターは飛行機とほとんど同じ動きをする大きな箱で、コンピュータ・グラフィックスで画面も動く。
なかなかの優れもので、飛行機と同じくらいの値段がする。
エアバス320の実機は、恐らく一機 35〜40億円位だと思うが、シミュレーターもそれぐらいする。
ビックリだ。
でも実機と違い、シミュレーターは乗客を運ぶことはなく、
お金を稼ぐことはないので、フル稼働で使用される。
もちろん騒音もないわけで、深夜も訓練、審査のスケジュールを組むのである。
人から聞いた話だが、アメリカでは24時間体制でシミュレーターは稼動しているらしい。
それだけ運用コストが下がるからだ。
しかし国際線を飛んでいる乗員は、比較的楽にこなしているのではないだろうか?

シミュレーターは、実機で乗客を乗せたままできない緊急事態を想定して訓練や審査を行うもの。
腹が立つくらい、どんな状況も模擬できてしまう。
離陸滑走中にエンジンが壊れ、離陸を中止したり、
離陸を継続し1つのエンジンが壊れたまま着陸するのは序の口。
火災の発生。
機体に穴が開き急減圧で緊急降下。
油圧系統、電気系統の故障。
ギア(タイヤ)が降りない。
フラップが降りない。
主の計器が全て壊れたり・・・・。
なんでも想定できる。
まさに乗員が恐れる恐怖のブラックボックス。

例えば・・・・ 羽田を離陸滑走中に火災が発生。
 火はなんとか消えたが、羽田は天気が悪く、降りれない。
天気を調べて成田に緊急着陸することを決定。
成田へ向かう途中、電気系統の一部が故障。 それとともに計器の一部も故障する。
それらの処置を大急ぎでしている間に、成田は近づきアプローチ開始。
まだ、処置は完了していないが着陸5分前になって、さらにフラップとギアが降りない故障も発生する。
ゴーアラウンドして処置をしているうちに燃料が減ってくる。
成田の天候も悪化。
目的地を別の一番近いところに変更。
そこの滑走路は羽田や成田のように長くない。
乗客は満席。
ここでブレーキの故障発生。
滑走路内で停止できそうにない。
燃料も底をつきそうだ。
仕方なく東京湾に緊急着水を決定・・・・・・・。
 こんなこともシミュレーターでは出来てしまうのである。
でも、富士山に着陸してみたり、以外な楽しみ方もあるらしい。
ちなみに実際の審査では、それほど酷なことはさせられない。
それでも冷や汗かき、手に汗を握り締めながら、必死で飛行するのである。
幸い、私はそんな緊張感が嫌いではない。



2000.09.22

起床 0510  Pick 0600 関空へ移動
Show Up 0710  221便 関空−松山 0810−0900
           237便 松山−千歳 0930−1135
           497便 千歳−稚内 1205−1255
           496便 稚内−千歳 1325−1415
           238便(DH=便乗) 千歳−松山 1450−1705  勤務終了 1705

496便(稚内−千歳)は私の担当だった。
北海道地方は非常に天候が良く、稚内を離陸し、5分もすると、すでに暑寒別岳はもちろん、
積丹半島よりはるか南まで見えている。
それはつまり、稚内の上空から、目的地の千歳が見えていることになる。
高い高度まで上がれば当たり前のことだが、
低い高度を飛行していて北海道の北から南まで見渡せるのは、最高に気分がいい。

天気の良い日は、景色を眺めたり、他機の無線の交信を聞いている。
たまに知ってる人の声が聞こえてくるととても嬉しいものだ。

昨日は、夕方にコーヒー飲み放題の喫茶店に行ったせいか、
8時にベットに入ったが、結局12時まで眠れなかった。
5時10分に起床。 かなり眠い。
私は毎日8〜9時間最低寝るよう心がけている。(寝すぎ??)
かなりきつい勤務なので、たっぷり睡眠をとっても終わるころにはグッタリしていることが多いが、
今日は比較的楽だった。
237便(松山−千歳)は当初 37,000ft で飛行していたが、低気圧の影響で気流が悪く、
途中から 21,000ft まで降りた。 恐らくそれが原因だと思う。

一日のトータルの飛行高度が 10万フィート以下になるよう勤務をくまないと、
体に疲れがたまる、とよく言われる。
例えば、大阪−高知を 2往復の勤務の日は、
16,000ft + 15,000ft + 16,000ft + 15,000ft = 6万2千フィート
今日の勤務は通常だと、
20,000ft + 37,000ft + 17,000ft + 18,000ft + 39,000ft = 13万1千フィート
どちらが疲れるかは一目瞭然。

では、なぜ高い高度をわざわざ飛ぶのか?
それは、ジェット・エンジンの場合、高度は高い方が一般的に燃費が良くなるからである。
しかも、速度が速い。 風の影響でそうでない場合もあるが。
本来、高い高度を飛ぶ予定の路線で、雲や風の影響で高高度が揺れる場合や、
ジェット気流の影響でタイムテーブルに書かれた時間内に目的地に到着できない場合など、
低い高度を飛ばざるをえない状況の日は、体にとってはラッキーだ。



2000.09.23

Show Up 0705  222便 松山−関空 0805−0855
           701便 関空−高知 0950−1030
           301便 高知−千歳 1120−1320
           302便 千歳−高知 1355−1600   勤務終了 1630

今日も昨日同様、日本海に位置する低気圧の影響で本州の天気は良くなかった。
高知−千歳 の往復中、ほとんど外の景色は見えない。
片道、約2時間のうち、飛行時間は1時間30分程度。
そのうち1時間以上は雲の中。
外は真っ白。 時々揺れるが、その度に座席ベルト着用のサインをつけようか悩む。
誰か、倒れて怪我はしないだろうか?
CA が揺れた瞬間に、誤って熱いコーヒーをお客さんにこぼさないか・・・・
刻々と変化する機外の風向、風速を指示する計器と、外気温度を示す計器と、ずっとにらめっこ。
風と温度が大きく変化するところに乱気流があるからだ。
しかし、乱気流に遭遇する3〜5分前にベルト着用のサインを点灯させなければならない。
CA がサービスに使うカートを片付け、乗客が全員座席ベルトを着用していることを確認し、
彼女達自身が着席するまでに、A320 の場合そのぐらいの時間を要する。
出発前に見てきた天気図を思い出しつつ、他機の揺れの無線によるレポートを聞きながら、揺れる場所を推測。

A320 には通常使う VHF の無線機が2つあるが、メインに使っている方の調子が悪かった。
送信、受信時、カチカチ断続的に音がする。
窓の外にはワイパーがあるが、そのワイパーに白い細かい粒子がぶつかり流れていく。
きっと氷の結晶だろう。
(高高度の雲は氷の粒が集まってできたものもある)
その粒子がワイパーの上を流れるのが見えなくなって、しばらくしてから無線機の雑音が消えたような気がする。
きっと氷の粒子と機体の摩擦で飛行機が帯電したために起こった現象ではかいか?
後になってそう思う。

時速800〜1000km程度で雲の中を飛行したとき、
雲を構成する水滴、氷との摩擦で飛行機が静電気を帯びる。
帯電しているから、雷を伴なった雲の近くを通っただけで、
飛行機が稲妻を引き付けてしまうことがあり、落雷する。
これをできるだけ避けるために、翼の先端にスタティック・ディスチャージャー(Static Discharger)という
小さなアンテナのようなものがついている。 なかなかの優れものだ。



2000.09.24

最近、除々にアクセス・カウンターが伸びてきました。
多くの方に見に来て頂いていることを本当に嬉しく思います。 アリガトウ!
僕の個人的な ”ボヤキ(?)” の様な日記なのに・・・・
これからも皆さんの疑問や質問に、本音や冗談も交えつつお答えできる範囲で紹介していこうと思うので
よろしくお願いします。



2000.09.25

久しぶりの2連休。
朝7時半に起きて、新聞を読み、その後差し替えをした。
規程類や、飛行機のマニュアルなど、よく一部が変更、改正される。
その度に、変更された部分のページのみ配られ、「差し替え」という作業をする。
少ないときは楽だが、沢山あると厄介。
変更・改正部分をよく読み、どう変わったのか覚えなければならない。
今回は飛行機のマニュアルに関する部分。
ある一部 「○○章」 がごっそり削除され、別にそこの部分だけの項目が作られた。
「○○章」 を抜き取り、本当に捨てちゃっていいのかなァ?と一瞬ためらいながら、でもポイッとゴミ箱へ。
これがなかなか気持ちよい。

休みの日は朝10時ちょうどにジムへ行ってウエイト・トレーニングをする。
これが日課だ。
3週間ほど左足首を負傷していたが、ようやく回復してきたので、スクワットとデッドリフトを再開。
太ももと腰がかなり弱っていた。
トレーニングが終わると、やはり足首が少し痛くなる。
まだまだジョギングには行けそうにない。

雲ひとつない良い天気だった。 妻とサイクリングに出かけた。
伊丹空港の 32L エンドへ行き、飛行機を2機みてから帰ってきた。



2000.09.28

大阪−高知 2往復半。
朝鮮半島から九州、四国にかけて、極めて細長い中層雲が一直線に伸びているのが、衛星写真に映っていた。
不思議な光景だ。
低層、中層、高層天気図、いずれを見ても、なぜそこに雲ができているのか分からなかった。
TAF(予報)によると、午後に高知では北西の風が強まる傾向。
「なんでですかねー?」、と機長に聞くと 「弱いけど、西高東低の冬型の気圧配置でしょ。
なるほど、確かにそうだった。
しかも上空には顕著な寒気が入っている。
ついこの前まで暑さが続いたため、秋であることすら忘れてしまう。
西高東低の冬型の気圧配置を、知識としてはもちろん知っている。
だが、天気図が冬型になっていても、「今日は冬型かな?」という気持ちでじっくり見ないと、
その存在に気が付かない。
自己嫌悪に陥る。

最初の2便は私の担当。
8000ft 以下は大阪も高知も Rough Air(揺れる)だったが、上空は気流スムース。
高知に向けて降下を開始したころ機長が言った。
あれが衛星に写ってた雲だろうね。
20,000ft 近辺に見渡す限り、進行方向に向かって
左から右に、厚さの薄い、細長い雲があった。

高知空港は右からの横風ランディング。
クラブで進入し、Threshold からウィング・ロー。
右のメインタイヤからそっと着けて着陸した。

機長から、降下のプラニングの研究をするようアドバイスされた。
旅客機では、安全性に問題が全くない、というだけでなく、運航にスマートさが求められる。
代表例が降下計画。
よい着陸は腕の(飛行技術)良し悪しだけで決まるものではない、と言われている。
降下計画がうまくいった結果、着陸が安定する。
もちろん降下計画が失敗しても、帳尻を合わせて着陸だけうまくすることもできるが、
それはスマートな運航とは言えない。

巡航高度の風、天気図でみた目的地周辺の風、速度、目的地までの距離を考慮に入れて
頭の中で計算し、降下開始点を決める。
そこからパワーを絞り、途中フラップ、スラット、ギアを準じ下ろし着陸形態を整える。
フラップ、スラット、ギアの速度に対する空気抵抗でどれだけ減速できるのか、
降下率が増えるのかも知っておくと便利だ。
風の読みを間違えて、パスが高すぎたり、低すぎたりしたときに
それらの空気抵抗(ドラッグ)を利用する。
そして無駄なパワーを使わずに、パイロットが目標とした地点と高度で、
意図した通りの着陸形態と速度になっていれば降下計画は成功したわけで、
その結果着陸もうまくいく。



2000.09.29

高気圧の後面のせいか、四国、近畿地方は少しずつ雲が広がってきた。
大阪ー高知間の丁度真中あたりに Base 14,000ft くらいの薄い雲の層があった。
そして時間とともに徐々に Base が下がる傾向だった。
実際に飛んでみると、13,000ft 近くまで垂れ下がっているところもあり、
Cloud Base もほつれていて、揺れそうな感じだった。

大阪ー高知では巡航(水平飛行部分)が 16,000ft だと10分程度。 12,000ft でも14分あるかないか。
サービスのためにベルトサインは消したいが、
巡航の真中付近に雲が垂れ下がっているとやっかいだ。
その雲の手前と向こう側は揺れないわけだから、ベルトサインを消すことはできる。
でも揺れだす3分前にサインを点灯させるとなると、14分÷2−3分=4分 しか消せない。
揺れる区間2分とすると、降下開始後、着陸態勢に入る前には、
またサインをつけなければならないわけだから、
14分÷2−2分=5分 消すことになる。
その度に CA は客室内を歩き、
乗客全員がシートベルトを着用していることを確認しなくてはならない。
この作業に2〜3分要する。

結局、上昇中からサインを消し、14,000ft で巡航、途中 12,000ft に降下、
7分後にサインをつけ、2分35秒後に強く揺れ出し、
揺れは2分ほど続き、その後スムースになった。
まもなく降下開始予定だったので、ベルトサインを消さずに着陸態勢に入った。
揺れが始まる前にベルトサインを点灯直後、後ろでドアがバタンとしまる音がした。
乗客がお手洗いに入ったのである。
揺れそうな雲が近づいてくると、早く出て席に戻ってくれないかなァ、とドキドキしてしまう。
幸い、最も揺れる区間を通過する前に、お客さんはお手洗いから出てきた。