2009.04.10

4月1日の夜、次男の呼吸がおかしいことに気がつき、救急病院に連れて行った。
血中酸素濃度の低下があり、酸素マスクがつけられた。
短い検査の結果、RSウィルスに感染していることが判明。
直ちに入院が必要と、救急車で大きな病院に運ばれた。

RSウィルスは生後3か月以降の子供が感染しても大した影響はないが、
それ以前だと危険なこともあるらしい。
次男は生後5週間程度でかかってしまったから大変だ。

酸素吸入をしていれば状態は安定していたので、心配なことはなかったが、
幼児が入院すると母親まで入院しなければならないらしく、これには大いに困った。
しかも、小児病棟には子供は入れない。
妻が病室にいて、私が病室に荷物を届ける時など、
長男は小児病棟の外のベンチで一人で待たなければならない。
出産の時、あまりにも長期間有給休暇を取り続けてしまったし、
どうしても受けなければならない座学等があり、会社を休めない日があったので、
長男はバーバに預けた。

今日、再び血液検査をした。
RSウィルスは体内から消滅していたので『外出許可』が出た。
外出許可?って、退院じゃないの?
13日に聴診器で胸の音を聞き、悪化していれば再入院!?
17日にレントゲンを撮るんだそうだ。

入学式の前日まで長男はバーバの家で過ごした。
寂しい、とか、いつ迎えに来てくれるの?とか一度も弱音をはかなかった。
偉かったぞ。
妻は長男の小学校の入学式に出席できなかった。
入学式の次の日、その次の日の準備は、有給を取り、私がした。
病院を何度も往復したし、洗濯、買出し、食事の準備、と、超多忙な毎日だった。

さすがに入学式の夜以降は、寝る前になると息子が泣いた。
「おかあさん、おらんと、さみしい。 なんでくらくなると、かなしくなるんかなぁ?」(息子)
今まで、ずっと泣かずに我慢してきた。
だから、もうちょっとがまんしよう、とはさすがに言えなかった。
そうだな。 さみしいな。 かなしいな。

小児病棟では、よく泣き声が聞こえた。
痛いよ゛ぉー。 痛いよ゛ぉー。
お母さん帰らないで。 お父さんじゃイヤ゛ァーーッ!
子供のそんな言葉を聞くと、ヒトの子でも可哀想で涙が出そうになる。
次男は言葉が話せない赤ちゃんで良かった。
10日程度で病院を出ることができて、本当に良かった。


長男がだいぶ前に嘔吐を伴うカゼにかかり、熱を出した。
それらしきカゼに妻と私もかかった。
息子が吐いたのは幼稚園のお友達達とランチをしている時だった。
お友達達も、その親もみんな感染したようだった。
ごめんなさい。
続いて次男がRSウィルスに感染。
ランチ・パーティーの場にいた別の赤ちゃんもRSウィルスに感染。
もう、責任、感じまくりだ。
ごめんなさい、ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
バーバに長男を預けたら、カゼがバーバにも感染。
バーバ、グッタリ。
バーバんとこの犬は長男にバーバを取られてしまって体調を崩して吐きまくり。
息子が隠れてビーフジャーキーをあげ過ぎて、お腹壊して下痢しまくり。
長男はセキが止まらず、うるさくてバーバ眠れず。
長男に接した妻の姉は声がつぶれた。
あぁーーーーー、本当に、みなさん、ご迷惑をおかけしましたぁーーっ!!



2009.04.13

関空−アモイ 往復。
行きも帰りも、ほぼ満席だった。
アモイの天気予報があまり良くなかったので、
代替飛行場に香港を取り、燃料をいっぱいいっぱいに搭載しての飛行計画だった。
こんな場合、飛行機の重量制限は着陸重量で制限される。

飛行機には色々な種類の重量制限がある。
例えば、滑走路が短くて機体が重いと、滑走路内で加速して浮ききれないかもしれない。
離陸滑走中にエンジンが壊れて停止操作をする際、重すぎたり追い風が強すぎたりすると、
どんなにブレーキを踏んでも滑走路内で止まりきれないことも考えられる。
離陸中にエンジンが壊れて離陸を継続し上昇する場合、
離陸経路上に障害物があるとそれを越えなければならないが、機体が重すぎると上昇勾配が浅くなり、
障害物を越えられないかもしれない。

今日の場合は、着陸時の衝撃にギア(車輪)が機体重量を支えきれるかどうか、の重量制限に引っかかった。
あまりにも重い重量で強めに接地すると、ギアの支柱の付け根が、翼の取り付け部を突き破ってしまう。
今日の飛行計画によると、予想着陸重量は128,200ポンド。
最大着陸重量は129,200ポンドだから、1000ポンド(455kg)の余裕しかない。
上空の向かい風が弱くて早く着いてしまうと、予想よりかなり燃料を消費しない場合も考えられる。
そういったことを考慮して1000ポンドの余裕を持たせてあるのだ。

コックピットで出発前の準備をしていた。
お客さんは搭乗し終わったようなのに、ドアは閉まらないし、
なかなか最終離陸重量が ACARS で上がってこない。
なんでかなぁ〜、と思っていると、カンパニー無線で呼ばれた。
「予定より Baggage が多く、重量が計画より600ポンドほど多くなりそうです。
 最大着陸重量に近づきますが、キャプテンの許可が出れば、Baggage を搭載したいのですが・・・。」(カンパニー)
600ポンドか・・・・、予定より燃料は300ポンド多く搭載されてるから、900ポンド・プラスになるわけね。
まぁ、なんとかなるでしょ。
「いいですよ。 全部、搭載してください。」
中国路線だからきっと中国人が多いんだろうなぁ。
中国の旅行客はお土産に家電製品をいっぱい買うって話を聞いたことがある。
買い物しすぎて持って帰るものが増えちゃったのかなぁ。
手荷物を全部載せずに、お客さんだけ運んでも、
目的地に着いてから手荷物がなかったらお客さんは困るわな。
予想着陸重量128,200ポンド+900ポンド=129,100ポンドか・・・・。
中国の国内に入ると、どうせ早めに高度を下げるよう管制官に指示されるから、
飛行計画より余計に燃料を消費するだろう。
上空の風や重量にもよるが、一般的にジェット機は巡航高度が低い方が燃費が悪いのだ。

貨物ドアが開き、Baggage の搭載が終了し、最終機体重量が ACARS で送られてきた。
1000ポンド・プラスか・・・・・。
「じゃあ、Push Back おもらってくれる?」
コパイに言った。

私達の駐機所の後ろを他機が通るようで、Push Back をスタンバイするよう、管制官に告げられた。
ここで再びカンパニーに無線で呼ばれた。
「Push Back スタンバイしてください。 新しい最終機体重量が出たので送ります。」(カンパニー)

しばらくして ACARS がプリント・アウトした重量を見ると・・・・・、
ゲッ! 計画当初より1500ポンドも増えちゃったじゃんかっ!
もし、燃費が計画通りだと、予想着陸重量は最大許容着陸重量を500ポンド上回ることになる。
大抵、燃費は飛行計画より良く、着陸時に予定より多く残ることが多い。
実質、2000ポンド近くオーバーしている可能性がある。

既に搭載した燃料を下ろすのはとても時間がかかるし、手続きが煩雑だ。
それに、アモイの天気が悪ければ上空で待機することも考えられる。
だったら燃料は多めに搭載しといて、アモイ上空で天候回復を待つためにホールディングし、
ちょうど2000ポンド燃やした後で天気が回復してアプローチし、
最大着陸重量ジャストでランディングする、っていうシナリオも考えられる。
もしアモイの天気が到着のだいぶ前までに回復したら、
早めに燃費の悪い低高度に降りて、2000ポンド分、余計に燃料を燃やすのが良さそうだ。
でも・・・、なーんか、もったいないなぁ・・・・。
それに地球に優しくない。
だけど仕方ない。


西日本から中国大陸の内部まで、低気圧に伴った高ーい雲に覆われていた。
雲の中は揺れそうで、唯一気流が良好なのは、最も燃費の良い 40,000feet だった。
ヒェ〜〜〜〜、どないしよ?

飛行経路上の各ポイントで、計画の残燃料量と、実際の残燃料量を比較する。
実際の残燃料量の方が、多い!
少しずつだが、遠くまで飛べば飛ぶほど、その差は開き、着実に燃料がどんどん余っていくではないかっ!
アモイの天気をチェック。
ゲェェエエーーーッ!!
完璧に回復しちゃってるよっ!
あーー、マズイ。
困った、、、、早く高度下げよ。

中国大陸に入っても、どこまでもどこまでも背の高い雲が続いていた。
どこで高度下げよう?
このまま行ったら、アモイの少し手前で待機してながら燃料を燃やさなければならない。
ただでさえ定刻より10分程遅れそうなのに、さらに15分も待機なんかしたくない。

上海を過ぎて、だいぶ南下したら、微妙に雲頂高度が下がってきた。
「よし、36,000feet もらってくれる?」
40,000feet での燃料流量は、エンジン1個当り一時間につき2600ポンドだった。
36,000feet に降りると・・・、2900ポンドになった。
ってことは、エンジン2個で1時間に600ポンド余計に燃やすことになる。
2000ポンド余計に燃やすには、3時間以上かかるじゃんかっ!
巡航はあと1時間しかない。
これじゃ、ぜんっぜん、足らん!

さらに南下すること15分。
オ゛オ゛ーーーーッ!!!!
雲が途切れてるっ!
「よし、降下させてもらおう。 6000m、もらって。」

しかーし、こちらのリクエスト空しく、管制官には
「Maintain Present Level.」(現在の飛行高度を維持せよ) と言われてしまっとぅぁぁあああーーっ!!
巡航時間はあと40分ほどしかない。
早く降りなきゃ。
でも、中国の管制官は、何度もリクエストすると怒る、と聞いている。

例えば、地上でクリアランスを待っていて、
余りにも長いこと待たされるので、あと何分待てばいいの?と聞いたところ、
離陸の順番が4番目ぐらいだったのに、最後に回されて意地悪された、との話をよく聞くのだ。
だから、何度も何度もリクエストしたくない。
してはいけない。
でも、リクエストしないとずっと低高度をくれないかもしれない。

えぇーーい!
「もう一回、聞いてくれる?」
再び、「Maintain Present Level.」

数分後、また聞いてもらった。
再び、「Maintain Present Level.」

数分後、また聞いてもらった。
「Do you have any problem with your aircraft?」(管制官)

イヤ、イヤ。 イッヤァーーー・・・・。
そーーーじゃないんだけどーーーー、、、、うーーーん、、、、なんて答えよう。
燃料が多すぎて着陸重量がオーバーしてるから燃費の悪い低高度で燃料をガンガン燃やしながら飛びたい、
なんて正直に言えるわけがなーーい。
中国の空を汚すのかっ!と怒られかねない。
コパイに無線で理由を言わせるのは可哀想だったので、私が無線で答えた。

「Due to the flight condition at high altitudes, we'd like to descend to 6000m.」
「Do you accept 6600m?」(管制官)
「YES! We accept 6600m. Thank you very much!」

スピード・ブレーキを引き、一気に降下した。
6600m(21,700feet)に到達し、燃料流量を見ると・・・・・、4500ポンド!
いーぞ、いーぞ、いーぞぉーーっ!
4500−2600=1900ポンド/エンジン1個/1時間
エンジン2個なら1時間当り3800ポンド。
40分なら2500ポンド!
ヨッシャーッ!!!!
これで待機せず、そのまま着陸できるっ!

機上コンピューターにアプローチタイプを入力し、最終的な予想着陸重量を計算させると・・・・、
128,500ポンド!
あ゛ぁ゛ーーーー・・・・・。
ちょっと燃料使うの多すぎたな・・・・。
129,000ポンドぐらいだったら完璧だったんだけどな。
ま、いっか。

帰りは上海の少し北で小さな積乱雲を避けただけで、後は関空まで何事もないフライトだった。


関空に到着後、携帯の電源を入れたら、妻からメールが入った。
次男、無事、退院が決定!
ホーーー、フゥーーーー・・・・・。
長かったわぁ〜。



2009.04.17

次男が再びレントゲンを撮るために病院へ行った。
これをクリアすれば完全に回復したとみなされるだけあって、ちょっとドキドキ。
私は仕事だった。

伊丹空港の9番スポットの根元付近に、ピアと呼ばれる部屋がある。
コンピューターを使って天気を確認したり、飛行計画書を受け取ったり、
喫煙家が便間でタバコを吸ったりするための場所だ。

代替飛行場として選定していた熊本空港の天候があまり良くなかったので、
セカンド・オルタネート(2つめの代替飛行場)として福岡空港を選定することになった。
すると新しい飛行計画が作成されるので、それを受領、プリントアウトするためにピアへ行った。

いつもガラーンとして、誰もいないことが多いピアに、珍しく多数の乗員がいた。
5、6名はいたような気がする。
コンピューター上で飛行計画書にサインするページを立ち上げてるいる間に、
ほとんどの乗員はピアを出て行った。
残されたのはタバコを吸っていたかなり年配のキャプテンと私だけ。

ひげを生やした恰幅の良いかなり年配のキャプテンが言った。
「飛行機はザワザワしてるから、帰りたくなんだよね。」(年配キャプテン)
「そーですよね、便間で清掃してるときは、僕達の居場所ないですよね。」
「そうそう。 でもさ、居場所がないのは飛行機だけじゃないんだな。
 家にもないからな。」(年配キャプテン)
「そんなこと言わないでくださいよ。 リビングのど真ん中に、ドカッと座っててくださいよ。」
すると、年配キャプテンは、ニヤリと笑って私に言った。
「まだまだ修行が足らないようだね♪」(年配キャプテン)

どーーいうことぉーーっ!?

オヤジはどこの家庭も大変だなぁ。
職場でも自宅でも居場所がない、って話、よく聞く。

仕事が終わってから妻に電話した。
次男のレントゲン写真に映った肺、とってもきれいに治っていたようだった。
よかった、よかった。