飛行高度の選び方

ジェット・エンジンは面白いもので、高度が高いほど少しの燃料を使います。
高い高度では空気密度が少ないので、
薄い空気に混合する燃料の量も減らさないと、きれいに燃焼しません。
当然、エンジンの出力は下がるのですが、空気が薄いため、
高速飛行の際に発生する空気抵抗も少なくなります。

飛行機の速度計は何を計っていると思いますか?
細く短いチューブ(50cm 以下)が飛行機に平行に取り付けてあります。
飛行機が前進すると、そのチューブを空気が通ります。
通った空気の粒子の数が、「速度」 と考えるのです。
空気の粒子、といっても実際には空気中に含まれる窒素や酸素、二酸化炭素の分子の数のことですが、
ここでは簡単に説明するために、空気の粒子、ということで説明します。
例えば、飛行機が前進し、チューブを1秒間に10個の空気の粒子が通ったときを時速10kmとします。
飛行機が加速して、1秒間に100個の空気が通過すれば時速100kmですね。
同じく500個通過すれば、時速500km、ということになります。

速度計を一定に保つ、例えば時速700kmで飛行するには、
チューブの中を空気が1秒間に700個通過すればよいのですが、
飛行機が上昇し、空気密度の薄い場所にいったらどうなるでしょうか?
空気密度の高い、つまり沢山の空気粒子のある低高度では、
例えば、飛行機が10m進めばチューブの中を700個の空気粒子が通過するのですが、
空気密度の低い、つまり空気粒子が少ししかない高高度では、
例えば、飛行機が20m進まないと、チューブの中を700個の空気粒子が通過しないのです。
ということは、計器は時速700kmと表示していても、実際には
高高度で飛行したほうが、低高度で飛行するよりも 2倍のスピードが出ていることになりますね。

エンジンの出力は高い高度ほど下がる、と先に述べましたが、
仮にエンジンが最大出力で飛行しているとき、
低高度で1秒間に10m進んで、700個の空気粒子をとらえて時速700kmで進んでるのと、
エンジンの最大出力が20%下がって、80%しか出てない高高度で、
1秒間に16m進み(20mの80%)、560個(700個の80%)の空気粒子しかとらえていなくても、
相対的な速度は1秒間に低高度10mと高高度16mで、60%速く飛んでいることになります。
このとき、コックピットの計器は低高度では時速700km、高高度では時速560kmです。
実際の速度が仮に低高度で時速700kmなら、高高度では1120km、ということになります。

以上の数字はあくまでも 「例」 として、ありえない数字を使っていますので、考え方だけ理解してください。
結論として言いたかったのは、ジェット機は高い高度を飛ぶほど、
燃料消費量が少なく、燃費が良い、ということです。
パイロットは体が疲れるので、できるだけ低いところを飛びたいのですが、
こうした理由から飛行を計画する地上職の方は、
できるだけコストの安い高い高度を飛ぶように計画します。


では、どういったときに高い高度に上がらなくてすむのでしょう?

例えば、東から西へ飛行するとき、ジェット気流が速すぎるため、
飛行機の実際の速度が高い高度で時速700km、低い高度で時速600kmのとき、
ジェット気流が西から東へ高い高度で時速300km、低い高度で時速100kmで吹いている場合、
地面に対する速度は高い高度で時速400km(=700-300)、
低い高度で時速500km(=600-100)です。
このとき、高い高度を飛んで燃費が良くても、より長い時間飛行するため、
低高度で飛行するのとトータルの燃料消費量が大して変わらなければ、
より早く目的地に到着できる低い高度を選ぶのです。

路線の距離が短い場合はどうでしょう?
沖縄から札幌へ行くのと、大阪から高知へ行くのとでは、近いほど低い高度を飛びます。
短い路線で高すぎる高度を選んでしまうと、
上昇して巡航高度に到達する前に、降下を開始しなくてはならなくなってしまいます。
仮に巡航高度に到達できても、巡航、つまり水平飛行している時間が短すぎると、
CA が乗客にサービスをしにくいでしょう。
もし上昇、降下中、揺れることが予想される場合、
巡航高度に達するまでシートベルト・サインを消すことができず
巡航高度が短いと、CA はほとんどサービスができませんし、
上昇、降下中ともにずっと揺れていると乗客も不快です。
そんなときは、例え巡航高度で追い風が時速300km吹いていようと、低い高度を選ぶことがあります。
その他にも色々と考慮する要素があります。

飛行経路上に高い山がある場合、例えば日本アルプスの上を飛ぶ場合、
障害物となる最も高い山とある程度の間隔を空けて飛行しないと危険ですから、
一定の高度以下には下がれません。

自衛隊の訓練空域、訓練空域へ行くまでの道の役割をする空域、などが、
高さ16,000ft から 19,000ft までといった具合に指定されている場合がありますが、
その間の高度は飛ぶことができません。

飛行機は雲の中を飛行する場合、テレビ局のようなアンテナからでる電波に沿って飛行します。
2本のアンテナを結ぶライン上を飛ぶのですが、電波は見通し距離しか届きませんので、
アンテナの近くに山があったりすると、
高い高度を飛行しないと飛行機が電波を受信できない場合があります。
また、2本のアンテナが遠くに離れるほど、高い高度でないとそれぞれの電波を拾えません。
こんなときも一定高度以下に下がることはできません。
ですが、やはり高度を選ぶうえで、最も重要になるのは天気でしょうか。

発達した雲のあるところ、ジェット気流のそばにある乱気流が発生しやすい場所、
風の方向、速度の変化が大きいところ、など、揺れそうな所を避けることができ、
つまりできるだけ長い時間シートベルト・サインを消すことができ、
かつ燃料の消費量が少なく、
追い風に乗ることにより、あるいは高高度で空気密度が低く、地面に対する飛行機の速度が大きくなる、
そんな高度を選ぶのです。