降下計画

沖縄の宮古島から関空へ帰ってくるとき、降下を開始するのは宮崎と鹿児島の間ぐらいになります。
降下開始点を Top Of Descent と呼び、TOD と書きます。
風を考えながら、TOD からパワーをアイドルに絞って、降下していきます。

エアバス320 は、
FL290(29,000ft)から 12,000ft まで 300kt(ノット)で約 4°の Path を降下、
10,000ft から下は 3°の Path を降下します。
12,000ft から 10,000ft までは 300kt から 250kt まで減速しながら降下するのに約8マイル、
10,000ft から下での着陸速度までの減速に約8マイルを使います。

4°、3°の Path は三角関数の 「タンジェント」 を使います。

 tan θ= 高度 ÷ 距離   (1マイル = 6,076feet)
10,000ft から着陸までに必要な距離は(減速分を抜いた距離)、
 tan 3°= 10,000ft ÷ 距離 
 ∴ 距離 = 10,000ft ÷ tan 3°= 190,811ft  190,811ft ÷ 6,076ft = 31.4マイル

FL290 から 12,000ft までは、17,000ft 高度を下げるのに必要な距離は、
 tan 4°= 10,000ft ÷ 距離 
 ∴ 距離 = 17,000ft ÷ tan 4°= 243,111ft   243,111ft ÷ 6,076ft = 40.0マイル

したがって、FL290 から着陸までに必要な距離は、
40 + 8 + 31 + 8 = 87マイル ということになります。


実際に上空で計算するときは、暗算で計算しますのでタンジェントは使いません。

39,000ft (FL390)から飛行場(0ft)まで降下する際の降下計画:

マッハ 0.78 で降下時は 29,000ft まで、マッハ 0.76 で降下時は 28,000ft まで、
1分間に 2,000ft ずつ降下させていくとします。
(状況によっては1分間に 1,000ft、1,500ft、2,500ft 等も使います。)
マッハ 0.78 で FL290、マッハ 0.76 で FL280 まで、というのは
そのあたりで 「マッハ」 が 「スピード」 300kt(ノット) に切り替わるからです。
「マッハ」 を一定に保つと、降下するにつれて、飛行機が維持する 「スピード」 が増えてしまいます。
そして、アイドルで 「スピード」 を増やそうとすると、機首が下がりすぎてしまい快適性を損ねます。
従って、 「マッハ」 が 「スピード」 に切り替わるまで、パワーを変動させながら、
「スピード」 一定ではなく、「降下率」 一定で降りていきます。

39,000ft から 29,000ft まで マック 0.78 で1分間に 2,000ft ずつ降下するとき、(マッハ=マック)
( 39,000 − 29,000 ) ÷ 2,000 = 5分
29,000ft に到達するまでに5分かかるわけです。
39,000ft で地面に対する飛行機の速度(Ground Speed)が540k(時速540マイル)なら、
540マイル ÷ 60分 = 9マイル  1分で9マイル進みます。
仮に 29,000ft の追い風が少なく Ground Speed が 500kt なら、
500マイル ÷ 60分 = 8.3マイル  1分で8.3マイル進みます。
(FL290 の風は、出発前にディスパッチで見た高層天気図で覚えておきます。
 あとは自分なりに予測します。)
39,000ft から 29,000ft まで平均で ( 9 + 8.3 ) ÷ 2 = 8.65マイル 1分間に進みますので、
約8.5 × 5分 = 約43マイル
1分に 8.65マイル のところを 8.5 で計算しているので、
43マイル に 約1マイル をたして、44マイル とします。
つまり、29,000ft に到達するまでに、44マイル進んでいることになります。


FL290(29,000ft)から 12,000ft まで 300kt(ノット)で約 4°の Path を降下します。
暗算で計算するときは、 4°の Path は 4,000ft につき 10マイル 進む、という法則を使います。
(1,000ft につき 2.5マイル)
( 29,000 − 12,000 ) = 17,000ft   4,000 × 4 = 16,000ft  1,000ft 余りますので、
40マイル + 2.5マイル = 約43マイル
FL290 から 12,000ft までは無風で 43マイル 必要です。

仮に FL290 から 12,000ft までの間、冷たい雲の中を降下するのなら、
機体に氷が付着しないように アンティ・アイス という装置を作動させますが、
このとき、エンジンの回転数が上がり、若干降下率が減り、43マイルより長い距離必要になります。
アンティ・アイスを作動させると、10,000ft につき約 3マイル余計に必要になるので、
( 29,000 − 12,000 ) = 17,000ft  1.7 × 3 = 約5マイル
43 + 5 = 48マイル 必要になります。

さらに、この間追い風を受けていて、
29.000ft での飛行機の実際の速度 450kt、(計器速度 300kt)、Ground Speed 540kt (追い風90kt)
12.000ft での飛行機の実際の速度 360kt、(計器速度 300kt)、Ground Speed 400kt (追い風40kt)
だとすると、
29,000ft では飛行機の実際の速度に対して 約2割 の追い風を受け、
12,000ft では飛行機の実際の速度に対して 約1割 の追い風を受けていることになります。
平均で 1.5割 の追い風を受けていることになるので、
上記で計算したムう風状態で降下に必要な 48マイル を1.5割増し(15%増し)にします。
48マイル × 1.15 = 約55マイル  となり、
この 55マイル が最終的に FL290 から 12,000ft までに必要な距離、ということになります。
(注 : 高い高度ほど空気密度が低いので、
     計器速度 300kt と一定でも、飛行機の実際の速度は変化します。)

さて、航空法によると、10,000ft 以下では 250kt 以下の速度で飛行しなくてはなりません。
12,000ft まで 300kt で降下し、そこから 250kt まで減速しながら10,000ftまで降ります。
これに 7 〜 8マイル 必要です。
ここでは追い風を受けているので、9マイル 必要だろうと、予測します。

仮に ILS という着陸方法で 3,000ft から飛行場に向けて着陸態勢を整えて降下する場合、
3,000ft で水平飛行して 250kt から 160kt まで減速します。
これに 8マイル 程度必要です。

10,000ft から 3,000ft まではアイドルで 約 3°Path で降下しますが、
暗算する際、1,000ft につき 3 を掛けて距離を計算します。
( 10,000 − 3,000 )× 3 = 21マイル
ここでも アンティ・アイス や 風 の状況を考慮にいれますが、ここではそのまま 21マイル とします。

最後に ILS で 3,000ft から標高 0ft の飛行場へ着陸するまでに 3°の Path で降りるわけですから、
3,000ft × 3 = 9マイル 必要になります。

全てをたせば、39,000ft から着陸するまでに必要な距離が計算できるのです。

44マイル + 55マイル + 9マイル + 21マイル + 8マイル + 9マイル = 146マイル (=263km)

飛行場の 146マイル(263km)手前から降下を開始すればよいことになりますね。

ただし、この距離は延べ飛行距離ですから、ジグザグに曲がった航路を飛行して飛行場に向かう場合、
計器上に表示される飛行場からの直線距離で簡単に決めることはできません。
ジグザグと変針する地点間の距離に応じて、
各地点での上空通過時の高度を、上記の方法で計算するのです。

さて、自分の計算した地点(TOD)から高度を降ろしてみます。
すると、自分が計算した各地点での予定高度と、
実際にその地点を通過する高度に食い違いが出てきます。
これは、飛行機の重量が軽かったり、予定していた風と違ったり、
雲がなくアンティ・アイスを使う必要がなかったり、等、色々な理由が考えられます。
また、自分が降下を開始する予定だった TOD から降下できない場合、
例えば自分の下に飛行機がいるため、管制官が降ろさせてくれない場合、等、
計算した降下計画が、なかなか思うようにドンピシャと当たるわけではありません。
自分の予測が外れてしまった場合の修正の仕方については、また別の機会に説明したいと思います。